『コン・エアー』を観て面白くて驚いた。ニコラス・ケイジの顔が素晴らしかった。驚異的に髪型が似合っていない。そして、登場人物がみんな犯罪者なので、誰が死んでも爽やかな気持ちになる。しかし、いちばんの凶悪犯で、少女も殺したことのある役柄のスティーブ・ブシェミが、出てくるだけで何もせず、ネタバレになるが最後は全く裁かれることなくラスベガスで豪遊し『今日は最高にツいてるね』の台詞で終わるのには驚いた。そら『人命軽視の映画』と揶揄されるだろう。そういうのが珍しいので面白かった。今週はあとは『ゾディアック』『ハロウィン』『火花』『ユリイカ』(四時間くらいあってビビった)『友だちのうちはどこ?』『マルコヴィッチの穴』『赤ひげ』『ゴーストワールド』『ヤングゼネレーション』2回目の『アクト・オブ・キリング』を観、まあ、どれもおもろかったが、計、何時間を無駄にしたろう。こんなことでは漫画が描けなくなり、金が無くなる。というか、もう無い。仕方ない漫画をちゃんと描こうと思った。
ところで、知らない人とお喋りができるらしいアプリがあるのだという。
漫画を描きながら、誰かと喋るかと思い、いれた。作業通話というヤツである。自分は、雑談しながらの方が、漫画が捗るタイプだ。
大学の友達であるかみなしも、一緒にやろうと誘った。そんで、ツイッターで何故か、いきなりフォローしてきた(いまは外れている)クリエイター専門のサーバーに入った。漫画家やイラストレーターや、作曲家も多いという。
お喋り部屋に入るには、まず自己紹介をしなければならないらしい。自分は
如意谷平文(にょいたに へぶん)です!商業で漫画を描いています!よろしくお願いします!
などと適当な名前で自己紹介した。しばらくすると管理人から許可が降りる。しかし問題はかみなしだ。彼は、「詩人で行けるんじゃね」といって自己紹介をした。
ミナッシー・力(ちから)です!現代詩や、ロックンローラーなどをやってます。
と書いた。アイコンはケニア人と写真を撮る彼の姿だ。もちろん合成で、彼は最近、なぜか自由な旅人の演技をしている。
それはいいとして、かくいう自分のアイコンも「マリファナを吸う赤ん坊」だったので、大丈夫かなと思っていたが、無事に許可が降りた。しかし、かみなしはいつまでたっても、入る権限を与えられなかった。
なんてことだ。かれはクリエイターだ。社会に認められたり、金を貰ったぐらいでクリエイターだと思ってくれるな。自分も全然漫画だけで生きていけぬ。生き方そのものが、クリエイターなのだ。芸術家なのだ。しかし、彼は何者でもないと判断され、いつまでも、門前で立ち尽くしていた。
仕方ないので別の雑談サーバーを探しだし、何とか知らない人と話すことに成功した。
驚いたが、かみなしは、初対面の人たちとも、開始50分で話題の中心になっていた。
一人くらい図太い奴がいたほうが、会話が弾むものである。自意識過剰で、繊細が服を着て歩いているような、例えば漫画家などは、集ったところで、相手を探るように、ポツリポツリと言葉を交わし合うだけである。
かみなしのおかげで場は盛り上がった。自分は、話すタイミングを必死に探り、溜まった言葉が喉まで出かかっているような心持ちであった。仕方がないことだ。そんなとき、なんでマリファナを吸う赤ん坊のアイコンなのですか?と訊かれ、自分は、溜まっていた言葉が射精のごとく一気に噴出した。
「これはですね、ぼく、中学んときマイルドヤンキーにいじめられとってね、それでも友達はマイルドヤンキーみたいな奴ばかりやからね、否定されながらも必死で執着しているような生き方してたら、そのウチにですね、マイルドヤンキーが絶対的な存在となって、本当に神のような存在になったんすわ、ほんで・・・」と急に語りだし、最後には、
「おれな、人間好きやねん!
やっぱり人間好きやから!」
と高々に放言した。
初対面のフリをして聴いていた、かみなしが、これはツッコまねばならん!と思ったのか
「如意谷さん、キャラ濃くね!?
へへへ……ねぇ皆さん。こいつキャラ濃いっすねぇ…」
とカバーしてくれた。おれがそういう奴であることは、かみなしには普通だが、みんなは沈黙してしまい、はじめて数秒間の濃厚な「間」がうまれた。
「ほら、ほら、如意谷さん。皆んな黙っちゃって、ねえ…」
自分は、開始50分で完全に変な奴だと思われてしまった。
そうなると、意地の張り合いというか、情けない存在証明のような行為を人は繰り返す。事あるごとに「おれ人間好きやから 」と言っていた。もちろん、繰り返す、というボケでもあるが、なかば本心でもある。
そして夜が白んできた頃、かみなしがログアウトし、周りが知らない人だけになった。自分は、必死でウケを狙った。ボケた。そして何回も不発に終わった。(たしか「おれの趣味イモ掘りやねん」と言ったことだけは覚えている)最後は外国人と口論になり「Get out!」と言い放ち何故か自分のほうが部屋を出た。
その後、それをツイッターにやんわりと書いたらクリエイターのサーバー管理者にバレたのか、いまは、権限を没取され、サーバー上から排斥された。狂人に思われたか、入ることができぬ。「貴様はクリエイターではない」と宣言されたような気がした。いまは詩人と共に電子の海を漂っている。人と関われば、無限の断絶が待っている。無限の断絶のなかで人と関わろうとするほかない。おれは、人間が好きやからである。
ああ、また仕事もせず、こんなことを書いて恥ずかしく無いのか。デーモンの幽閉されし塔に、千年ほど閉じ込めておいた方がいい文章だ。もう何年も前から恥も外聞もない。しょうもない頭の中に散らばった言葉を文字にして発表する。絵にして発表する。学もなくなんの土台もない癖に作品を発表している。いつまで続けていくのか。そもそも漫画家は存在が恥だ。恥だと思わない奴は阿呆だ。恥を乗り越えるには、もう、新たな恥で上塗りすることしかない。